「夏」は気持ちいい季節ではなかった?
毎日暑い日が続いていますね。
「今年の夏は本当に暑いですね。」
教室でも、生徒さんや保護者の方とそんな会話をすることが増えてきました。
最近では35度を超える日も珍しくなく、「昔の夏はもう少し過ごしやすかったような気がするなあ」と感じる方も多いのではないでしょうか。
ところで、クラシック音楽にも「夏」をテーマにした有名な作品があります。
それが、ヴィヴァルディ作曲の《四季》の「夏」です。
クラシックにあまり詳しくない方でも、《四季》という名前は聞いたことがあるかもしれません。
春・夏・秋・冬、それぞれの季節を音楽で表現した、とても有名な作品です。
ところが、この「夏」を初めて聴くと、多くの方が少し驚きます。
「夏」と聞くと、青空や海、ひまわり、楽しい夏休みなどを思い浮かべる方が多いでしょう。
ところが、ヴィヴァルディが描いた夏は、そんな爽やかな世界ではありません。
実は、「暑すぎて大変!」という夏なのです。
曲の最初から、何とも言えない重苦しい雰囲気が漂います。
空気はじっとしていて、風も吹かず、人も動物も暑さでぐったりしています。
「暑い……。」
そんなため息まで聞こえてきそうです。
さらに途中では、小鳥のさえずりや風の音も登場します。
でも、それも穏やかな自然ではありません。
少しずつ風が強くなり、「これは嵐が来るぞ」という不安な空気が広がっていきます。
そして最後には、大きな雷と激しい雨。
ヴァイオリンがものすごい速さで駆け回り、雷鳴や豪雨を見事に表現しています。
300年ほど前の作品とは思えないほど、その情景が目に浮かぶようです。
実は《四季》には、それぞれの曲に短い詩が添えられています。
「夏」の詩には、暑さに苦しむ羊飼いや家畜、突然の雷雨などが書かれていて、ヴィヴァルディはその情景を音で描いていたのです。
つまり、この曲は「夏らしい曲」というより、「夏の物語」なのですね。
私はこの作品を聴くたびに、「300年前の人たちも暑かったんだなあ」と少し親近感が湧いてきます。
もちろん今のようにエアコンはありません。
暑い日は木陰で休み、風が吹くのを待ちながら過ごしていたのでしょう。
そんな時代の人々の暮らしを想像すると、音楽がより身近に感じられます。
クラシック音楽は、「難しい」「何を表現しているのか分からない」と思われることがあります。
でも、実はこんなふうに自然や季節、人々の暮らしを描いている作品もたくさんあります。
物語を知ってから聴いてみると、「本当に雷みたい!」「風が吹いてきたみたい!」と、新しい発見があるかもしれません。
ヴァイオリンを習っている生徒さんたちにも、ただ音符を追いかけるだけではなく、「この曲はどんな景色を描いているんだろう」と想像しながら演奏してほしいと思っています。
音楽には、言葉では伝えきれない景色や感情を表現する力があります。
それがクラシック音楽の大きな魅力の一つです。
今年の夏、もし少し涼しい部屋で過ごす時間がありましたら、ぜひヴィヴァルディの《四季》の「夏」を聴いてみてください。
もしかすると、「暑い!」という気持ちまで音楽になっていることに気づき、300年前の作曲家と少しだけ気持ちを共有できるかもしれません。
そんな楽しみ方も、クラシック音楽ならではの面白さなのです。

